【インド人嘘つかないは本当だった】車椅子でパルテノン神殿を攻略した話
前編からの続きになります。
前編はこちらからどうぞ
ホテルの前で偶然出会ったインド人、彼は慣れた手つきでタクシーを停めてなにやらドライバーと話している。
英語なのかギリシア語なのかわからない状態なので、内容は理解出来ない…
それでも車は確かにパルテノン神殿へ向かっているのが分かった。
丘を登り始めて、バスやタクシーがたくさん停まっているロータリーに辿り着いた。
本来観光客はここで降りるのであろうが、インド人はドライバーに「もっと上に行け」と言うようなジェスチャーをした。
ドライバーは渋々上に向かい、チケット売り場の手前で私たちを降ろした。
チケット売り場に着くとインド人が「俺が買って来てやる」と意気揚々と窓口に走って行ったが、通常料金(約2500円)を請求されたので、「多分障害者は割引になるんじゃないかなぁ?」と彼に話してたら、隣で話を聞いていた謎の老婆に声をかけられた。
「この紙を持って行きなさい、貴方達は問題無く中に入れるでしょう」
となんとなくそんな言葉を言ってるように聞こえた。怪しさ満点ではあったが、無料で入れるならこれほどありがたいことはない。
早速車椅子用の入り口を目指した。
確かに無料で入ることはできた。
しかし、入り口まで辿り着くと門番のようなお兄さん二人に制止された。
「残念ながら今日は入れない…昨日の雨の影響で階段昇降用のリフトが動かないんだ…」
くぅ…せっかくここまで来たのに諦めなければ行けないのか。
と、落ち込んでいたらインド人が「俺が担いでやるよ」的な事を言ってくれた。
どうやら、パルテノン神殿へ行くには二つリフトがあるようだ。
一つは階段昇降用、一つは崖を垂直に上る用。
階段昇降機(壊れていて使えなかった)
もし崖を上る用が壊れていたら諦めなければいけないが、階段なら登れるかもしれないぜと説明してくれた。
少しだけ希望が見えてきた。
門番のお兄さん達も、お前たち、クレイジーだなぁといった顔で僕たちを中に通した。
階段にたどり着いたが傾斜がかなり急で30段ほどあった。
これはインド人一人ではどう考えても無理だ。
周りを見ると階段の下で家族を待っている車椅子のおばさまがこちらを見ていて話しかけてきた。
「私も登りたかったけど、この階段を見て諦めて家族を行かせて待ってるの」
うむ、普通は諦めるだろう。
するとインド人が「ちょっと待っていろ」とどこかへ走っていった。
戻ってくると彼の隣には屈強そうなスペイン人の男性。
車椅子込みで重量80kgはある私を持って二人は一段一段と上に進んでいく。
日の照るアテネは想像以上に暑く、二人は額から汗が吹き出ていて、何度も休みながら、何とか上にたどり着いた。
そして、3人で、俺たちやったな!やってやったぜ!みたいなハイテンションで抱擁し、スペイン人とはそこで別れた。
階段を登り終えた後は、絶叫マシンの4倍ほどスリルのある崖登り用の垂直リフトに乗って神殿のある丘までたどり着いた。
神殿の周りの路面もガタガタだったがずっとインド人が押してくれた。
ひとしきり見て回って、帰りも同じように助けを借りてなんとか街まで戻ってきた。
彼はツアー代や金銭を要求することなんて無かった。
僕はせめてものお礼にと彼をご飯に誘った。
ギリシャ料理のレストランで彼は最後に色々な事を話してくれた。
彼は20歳そこそこでインドを出て、2年かけてギリシャまで歩いてきた。
今、アテネ界隈でトータル50部屋以上を持つホステルのマネージャーらしい。
インドからギリシャに来て25年。
20代という若さで自分の国を捨て、見知らぬ国で生きる覚悟を持つことは並大抵の気持ちではできないと思う。
彼はいつも笑顔だった。
最後に、どうして僕を助けようと思ったの?と言う問いに対してこう答えた。
「俺たちは宇宙生まれの宇宙育ち。そんな世界で、性別や年齢、障害なんて関係ない。俺は今日時間があって、体が動いて、君を助けることができた。そんな一日を与えてくれてありがとう。」
くだらない疑念を彼に抱いていた事を恥じた。
もちろん全ての人間が彼のような人間ではないが、人を疑って何もしないくらいなら、人を信じて何か起こる人生の方が楽しい。
明日は誰と出会って何が起こるのか、想像のつかない人生を歩むのはなんてワクワクするのだろう。